大スランプからの脱出(2)
中3の1月の北海道学力コンクール。
私が所属していた塾では受験生にとっては
最後の本番さながらの模試となります。
そこで、私は生徒たちに自己採点をさせていたのですが、
その生徒が叩き出した点数は273点。
志望校に対しては圧倒的ともいうべき高得点です。
しかし、その日から、その子は完全に「おかしく」
なってしまった…あの高得点はこの生徒から
何を剥ぎ取ってしまったというのでしょう。
ハッキリ覚えています。模試の次の日からです。
絶対に解けるはずの問題が全然解けなくなり
覚えていたはずの英単語もほとんどわからず
長文問題は手も付けられなくなった…
得意だった社会の記述問題も空白となり、
その子はボロボロと涙をこぼすのでした。
私は教務室という、私の部屋に生徒を呼び出し
何が起こっているのかを尋ねました。
何を勉強しても、全く頭に入らない。
今まで分かっていたはずの事も
本当に分かるようになっていたのか自信が持てない。
そういって生徒は泣きながら塞ぎ込んでしまったのです。
オリンピック選手は、金メダルを獲ると
やる気を失ってしまう「燃え尽き症候群」に
陥る事があると言います。
今思えば、私にも責任があったのかもしれません。
私は新年度が始まる前に、この生徒に目標を伝えました。
志望校に合格するためには…から始まって、その為の
具体的な目標を伝えたんです。1月の道コンによって、
その具体的な目標を全てコンプリートさせた事が
彼女を燃え尽きさせてしまったのかもしれない。
「それでも合格できるかどうかはわからない」
という言葉が余計だったのかもしれませんね。
それまで、完全に具体的な点数目標を伝え、
真面目なこの生徒はそれを超えるために確実に努力をし
着々と点数をクリアしてきたのに、最後の最後に
抽象的な「~かどうかわからない」で
締めくくってしまった事が「その後、どうしろと?」
という疑問符と、今までの疲れがドッと押し寄せたから
こうなってしまったのかもしれません。
毎日でも構わないから、勉強をしていて
不安になったら教室に電話しておいで。
そういって、この生徒をなだめたんです。
そうしたら、その日の夜から電話が
かかってくるようになりました。
スゴイ早口で「先生、今日、私が勉強したのは…」
から始まる電話でした。普通の会話とは程遠い感じの
事務的な電話です。20分くらい、何を勉強して
どこでつまづいたのかを一方的に、この生徒が話すんです。
私は、一通り話を聞いて、勉強した科目と単元に関して
ちょこっと確認問題を口頭で出して、それに答えさせ
「よし!今日の勉強は大丈夫だね。
明日は何の科目の勉強をしようか?」と聞いて、
「明日は理科の化学変化と数学の一次関数の塾の2年生の時の
テキストをもう一度やろうと思います」と答えた生徒に
「わかりました。今日の勉強は終わりにして、
しっかり寝なさい。おやすみ」と言って電話を切る…
これが、この日から受験前日まで続きました。
しかも、受難はそれだけじゃなかったのです。
明日へ続く。